法曹(裁判官・検察官・弁護士)になるには最難関の司法試験に合格しなくてはいけない。しかしもう一つのステップがある。それは司法修習である。二回試験の実施もあるが、それ以上に頭をなやませることが多いのが司法修習中の生活費だ。
2010年までは給費制
司法試験に合格後、最高裁判所に司法修習生として採用されると、1年間の司法修習に臨むことになる。この間、公務員に準じた地位が与えられる。
そして2010年までは、約20万円の給与(+ボーナス)が司法修習生に支払われきた。この制度により司法修習生は修習に集中することができた。
ところがその後、法曹人口拡大による財政難を理由として、給費制度が終了した。これに代わるのが「貸与制」である。2011年度の司法試験合格者から、希望者に対し月額18万円から28万円が無利息で貸与されている。
返済に苦しむケースも
司法修習は1年間であり、また無利息による貸与であるため、一見すると好条件のように思える。しかし司法試験に挑戦するには法科大学院の修了が条件となっており(現在では予備試験制度もあるが)、この過程で多額の奨学金を利用している方が多い。
つまり「奨学金」と司法修習による「貸与」の返却と重荷になっている。そして一番の問題点が、無利子であるにも関わらず返済に困窮する方が多いと言う点だ。
これには「法科大学院の存在意義」「新たなルートして注目を集める予備試験と比較」、そして「法曹人口を拡大させた司法制度改革の是非」など、議論すべき論点がたくさんある。
給費金の復活へ
そのような切実な問題がある中、司法修習における給費金制度が復活することになった。
司法修習生に生活費給費 月13.5万円、来年度から
2016/12/19 20:36法務省は19日、司法試験に合格した司法修習生に対し、生活費などとして月13万5千円を一律給費する新たな制度を来年度から導入すると発表した。現在は一定額を無利子で貸し、分割返済してもらう「貸与制」だが、支援策を充実させて低迷する法曹志願者の増加につなげるのが狙い。貸与制も併存させる。
日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG19HC7_Z11C16A2CR8000/
貸与制の併存
上の記事の最後の部分に注目して頂きたいが、「貸与制も併存させる」とある。つまり2010年以前のような「月額給与+ボーナス」のような完全な給費制の復活ではなく、貸与制との併存でスタートする。
これには貸与制の存在を理由に、給費額の抑制を警戒する声が上がっている。
給費額は月額135,000円
そして実際の給費額は、記事にもあるように135,000円となりそうだ。この他に住居が必要な修習生には別途、住居費として35,000円が給費される。つまり合計で17万円となる訳だが、2010年以前の月額20万円には及ばない。
いつから実施される?
今回の給費制度であるが、国会等の審議を経て裁判所法改正案の可決成立が必要となる。早ければ2017年度合格者から実施される予定だ。
今までの貸与(債務)は免除されるのか?
ここまでの話を聞けば、金額はともかく給費制度が復活されることは喜ばしことに思える。もっとも2011年度合格者からは貸与制に移行しており、その対象者の方の債務はどのようになるのか注目される。
講師のコメント
この点について、実際に貸与の対象者であり、現在は司法試験スクールBEXAで試験対策講義も担当する久保田康介先生のブログ記事(講師ブログ)を紹介したい。
司法試験講師ブログ | 試験部
司法試験の講師ブログの最新記事です。予備試験、法科大学院対策も。
shikaku-pass.net
これまでに貸与を受けた方への債務の免除というのは難しいと思います。貸与を受けていない人の扱いに困りますからね。他方で、遡及的に一定額の支給を行うことはあり得なくはないですが、それだけの予算が必要になりますから少々厳しいのではないかと考えています。
引用:おーらせらぴー
http://ouraroom.blog.jp/archives/1063186411.html
この債務の免除に対しては、現在のところ法務省から発表はない。今後の動きに注目する必要があるが、いま現在、多額の債務の返済に苦しんでいる若手弁護士や法科大学院修了者の方が多い。
裁判制度、国民への司法サービス提供、法曹養成制度などをモットーにスタートした司法制度改革だが、次の法曹を担う若い世代の保障も検討すべきではないだろうか。
【関連動画】「試験に合格したけれど... どうなる?司法修習生の「お給料」」